グラスとマニキュアをテーブルの上に並べて眺めるあたしを、いつの間にか椅子に座っていたおじさんが、じっと見つめていた。右手で頬杖をついて、やっぱりなんでもない表情。いつもの顔。


「和志さんは、ないの? プレゼント」


わざとそういう言い方をしてしまったのは、精いっぱいの照れ隠しだった。目が合って、どきっとしてしまったのを、なんとなく知られたくなくて。


「ある」

「え?」


予想外の答え。また真顔で冗談を言われているのかな。


「でももうじゅうぶん満足そうだし、いいだろ」


なにが『いい』のさ?

いいわけない。ぜんぜんよくない。


「ゼンッゼン満足してない!」


立ち上がって言うと、おじさんはちょっと笑った。


「図々しいやつだな」

「いいのっ」


おじさんもおもむろに立ち上がった。そして、キッチンカウンターの端っこに置いてある車のキーを手に取った。


「じゃあ行くか」


どこに行くか、聞かないでもなんとなくわかったよ。


「アトリエ?」


おじさんはなにも答えなかったけど、たぶん正解だ。