「食べてもいい?」
すでに炊飯器をパカッと開けているおかーさんが振り返った。
「いや、だから、ほんとにマズイって」
それにいま『まずそう』って言いやがったじゃないか。
「でもせっかく祈がつくったやつなんだから。いいでしょ、ね」
「ええ……」
食べたらどうせまた文句言うくせに。おかーさんの性格はよく知っている。
でも、そんな反論はできないうちに、彼女はあっという間にカレーの用意を終えてしまった。ついでに冷蔵庫のなかのサラダも目ざとく見つけてきた。
「久しぶりだね。こうやって家でいっしょにごはん食べるの」
「……おかーさんが早く帰ってこないからジャン」
「まあね。そうなんだよねえ」
口をとがらせるあたしの頭を、おかーさんのきれいな指がぐしゃりと撫でる。月1で装いを変えるネイル、今月はパステルグリーンだ。5月っぽい。
きれいだな。おかーさんによく似合う色だって思う。
その手が今度はスプーンを持った。あたしのすぐ目の前で。
「いただきまーす」
それだけで、その言葉で、なんだか無性に泣きそうになったよ。
だっておかーさんが、こんな時間に帰ってきて、こうしてあたしのつくったクソまずいカレーを食べてくれているんだ。
「……うわ。なにこれマッズー」
想像通りの文句だったので、思わず笑ってしまった。同時に涙は引っこんだ。
「ほんとに祈は料理のセンスないね。私にそっくり!」
「……もう、うるさいなあ。勝手に食べたんだから完食してよね」
マズイマズイと言いながらもばくばく食べるおかーさんに負けじと、あたしもカレーを口に運んだ。
やっぱりまずいよ。よくそんなに食べられる。
でも、おかーさんはやっぱり笑っていた。うれしそうな顔だった。そんなの見せられたら、あたしだって、意地でも完食するしかないじゃんか。