その圧倒的に美しい横顔を眺めながら、おかーさんはどうなんだろうって思った。

ちゃんとゴハン食べてるかな。あの一軒家でひとりぼっちはさみしくないかな。それとも、あたしがいない生活は、けっこう快適だったりするのかな。

そこまで思って、考えるのをやめた。

またあのもやもやが胸に広がっていくみたい。


「さあ祈、そろそろ中入ろうか。あしたサユも朝練あるみたいだし、私も仕事あるからもう帰らないと。あんまり遅くまで居座ったら佐山くんにも嫌な顔されそう」


最後の一行はすごく笑いながら、冗談めかして言った。


おかーさんって、実はおじさんに負けないくらいわけのわからない存在だ。

世界中の誰よりも強くて美しくて優しいけど、いつも“そう”だから、ちょっとこわいときがある。

このひとの弱さを見たことなんか一度もない。わたしが間違って叱られることはあるけど、泣いたり怒ったり、理不尽に感情をぶつけられたことなんか一度もない。愚痴だってほとんどこぼさない。

17年間もおかーさんといっしょにいるのに、あたしはまだこのひとの本質みたいなものを知れていないのかもしれない。

それは、おかーさんを愛していないとか、おかーさんに愛されていないとか、そういうのとはぜんぜん違くて。


「ねえ、おかーさん」


なんとなく呼び止めると、彼女はのんびりあたしを振り返った。


「お父さんってどんなひと?」


ショッピングモールで三宅たちに会う前から、うんと前から、ほんとは気になっていたことだった。

でもずっと気にしないようにしていた。気にしてはいけないってどこかで思っていたのかも。


おかーさんははっとしたように目を見開いて、少し狼狽した。視線がすっと外れる。こんなふうに困っているおかーさんははじめて見る。


「……そうだね」


答えを考えるみたいにつぶやいて、おかーさんは再びあたしに視線を戻した。

ちょっと悲しそうで、でもすごくきれいにほほ笑んでいたから、あたしはすでに少し後悔していた。

やっぱりまずいこと聞いちゃったかも……。


「べつにたいした話じゃないんだけど、そろそろ祈にも話しておかないといけないかぁ。また今度、時間のあるときに、ココアでも飲みながら話すよ」


今度って、いつだろう? 1週間後かもしれないし、もしかしたら10年後かもしれない。