「佐山くんも、なにもなかったわけではないからね」
意味深な言い方だった。なにもなかったわけじゃないってのは、つまり、なにかあったってことだ。
なんだろう? おじさんが積み重ねてきた32年のあいだに、いったいなにがあったんだろう?
悲しいことかな?
こわいことかな?
それとももっと違う、あたしの想像なんかぜんぜん追いつかないようなことかもしれない。
くわしく聞きたかったけど、おかーさんはなにもしゃべってくれないような気がしたし、ここでコッソリ知ってしまうのはなんとなくルール違反のように思えたから、やめておいた。
ほんとはちょっとビビッてるのかも。だって、宇宙人みたいな男の核心をいきなり知ってしまうなんて、けっこうコワイよ。とても勇気のいることだ。
すごくヘビーな話だったとして、そしたら、あしたからおじさんとどう接していいかわかんなくなるかもしれないし……。
「ほんとはね、佐山くんに祈を預けたのって、佐山くんのためにもなるかなって思ってのことだったの」
ちょっと迷ったあとで、おかーさんは遠慮がちに言った。でもそのあとですぐ、得意げな顔を浮かべた。
「でもやっぱり私の見る目に間違いはなかったね? 祈も佐山くんもすごく変わった。祈を変えたのは佐山くんで、佐山くんを変えたのは祈だね。いい意味だよ。プラスの相互作用だ」
そうかな。きょうのおじさんも、突然迎えに来たあの日のおじさんも、あたしにはなんら変わりなく思えるけどなぁ。