ケーキは食後すぐに食べた。苺がたくさん乗ったチョコレートケーキは、甘くてすっぱくて本当においしかった。

食べながら、何度もオメデトウを浴びせられるもんだから、思わずほろりときちゃったよ。おかーさんとサユがものすごくびっくりしていた。あたしもびっくりした。

このごろ涙腺がちょっと緩くなってる気がするなあ。少しケーキを食べただけで胸やけを起こすような32歳と生活するようになってから、なんだか無駄に涙もろいよ。


おじさんは、食事のあとは決まって煙草を吸いに家を出ていく。煙草でのトラブルを避けるため、このマンションには2階のフロア内にわざわざ喫煙所が設けてあるのだ。とても現代っぽいシステムだ。

ソファでよもぎと遊んでいたサユはいつの間にか寝こけていた。部活で疲れているんだろう。体が冷えてしまわないようにブランケットを掛けておく。おじさんがくれた、きれいな水色のやつ。



「――祈、おいで」


そのとき、いきなり呼ばれた。いつの間にかベランダに出ていたおかーさんだった。


「星がきれいだよ」


言われるがままにベランダに出ると、梅雨とは思えないほど見事な星空が頭上に広がっていて、息をのむほど美しかった。

隣のおかーさんも感心したように口をあけたまま、無数の輝きを眺めている。


「口あけてると、星が落っこちてきて、のどに詰まるんだよ」


なんとなく、いつかおじさんに言われた台詞をそのまま引用する。おかーさんは驚いたように目線をあたしに移し、そのつり気味のぱっちりふたえが3回まばたきをした。


「なにそれ?」

「前にね、和志さんに言われたの。あのひとって時々おかしなこと言うね」


おかーさんは声を出して笑った。風に揺れる前髪を右手でかき上げるしぐさがすごくカッコイイと思った。


「おもしろいでしょう? 佐山くん」


いい意味で。と、おかーさんは付け足した。