「スッゴクいーちゃんのこと気にしてたけど、なんかあったの?」
そういう聞き方をされると返事に困るね。けっこうな大事件があったような気もするし、あんなのはなんでもないことのようにも思えるし。
黙ってカルパッチョに箸を伸ばしたあたしを見て、サユはちょっと心配そうに眉を下げた。
「三宅はアホだけど、いいやつだよ」
知ってるよ。すごいアホだってのも、それ以上にいいやつだってのも。
べつに三宅にヤなことをされたり言われたりしたわけじゃないから、あいつがなにかを気にする必要なんかないのにな。
三宅ってけっこうそういうやつだ。自分に関係ないことまで、心配して、気にして、胃を痛めちゃうことだってあるような。とにかくいいやつなんだ、本当に。たしかにアホなんだけど、たぶん、そのぶんだけ。
だってあいつは、あたしみたいなのにも、学校来いよって大まじめに言ってくれた。
「なんか知らないけど、いーちゃんに連絡するのもしぶってたくらいでね? 気の小さいヘタレだよねえ、ほんと」
サユがわざとおどけたように笑う。それを聞いて、タイミングを見計らったように、おかーさんが顔をニヤつかせながら口を開いた。嫌な予感。
「ねえサユ、ミヤケって誰? 男の子? 祈と仲良しなの?」
「そうだよ、ゆりちゃん、わたしがヤキモチ妬いちゃうくらいだよ。いついーちゃんをとられちゃうかってハラハラしてるもん」
大げさなんだ。三宅のほかに仲の良い男子がいないから相対的に中良さそうに見えるのと、たぶん三宅が必要以上に人懐こいってだけなのに、そういう言い方はやめてほしい。
「三宅はそういうんじゃないし、しゃべってばっかりだとお肉なくなるよ」
見せつけるように鍋のなかの肉を3枚同時にすくいあげた。そろそろお腹はいっぱいだけど、一刻も早くふたりに話を切りあげてほしかった。
嫌だ。おじさんの前でそういう話をされるの、なんだか無性に嫌だ。理由はわからないけどすごく嫌だ。
これは、気恥ずかしいとか、そういうのとは違う気持ちだ。