あんまりにも落ち着かなくて、ソファの端っこで体操すわりでもしていようかと思った。でもその前にリビングのドアが再び開いていた。


「――いーちゃん、お誕生日オメデトウ!」


心の準備をする間もなくまず飛びこんできたのは、満面の笑みのサユと、その高い声。サユも三宅と同じに心なしか日焼けしているように見えた。

それから無言のおじさんとよもぎが入ってきて、最後に現れたのが、1か月ぶりに見るおかーさんで。


「久しぶりだね、祈。17歳おめでとう」


べつになつかしいみたいな気持ちはこみ上がってこなかった。いままでだって、ほとんど顔を合わさないまま1か月くらい生活していたことなんか、ザラにあったし。

それでもお腹のあたりがむずがゆいのはたしかだ。

やっぱりどんな顔をすればいいのか見当もつかないよ。笑顔は違うと思う。でも、オメデトウって言われているのに怒ったような顔をするのは、たぶんもっと違う。


「……アリガトウ」


そもそも、誕生日にしろなんにしろ、祝われるのって得意じゃないんだ。だから居心地の悪さはもう頂点まで達していて、そしたら顔を上げることすら困難になって、床を見つめながらの返事になってしまった。感じ悪い。


「ケーキ買ってきたよ、祈の好きなチョコのやつ。佐山くんが用意してないなんてほざくからあわててサユと選んできたの」


少し大きめの紙袋を顔の横で揺らしながら、おかーさんがうれしそうに言った。

なんか、やっぱりおかーさんはおかーさんだなって思う。なんにも変わらない能天気な顔を見て安心したし、もやもやもした。うまく言えない。


「さすがにそこまで気ィ回らねえっすよ」

「ええ? 誕生日にケーキは必須項目だよ?」

「いやぁ、そういうのにはあんまり縁がなかったんで……」


びっくりした。おじさんが敬語を使っている。おじさんはおかーさんの部下だったと言っていたし、そういう上下関係なのは知っていたけど、いざ目の当たりにするとなんかヘンテコだ。