ふいにインターホンが鳴った。ピンポンという間の抜けた音がふたりのあいだに落ちたと同時に、寝そべっていたよもぎがすくっと立ち上がる。
「ああ、来たな。おまえ出ろよ」
なんとなくそう言われるような気がしたし、やだって思ったよ。だって直感でわかるもん。ドアの向こうには、サユといっしょに、おかーさんもいるって。
「そっちが出てよ。家主なんだから」
べつにおかーさんの顔が見たくないとかそういうんじゃない。ただ、どんな顔をすればいいのかがわからない。
あんな電話が最後だったからね。おじさんがあたしを迎えに来た日、受話器越しにガキくさい文句をぶっ放したのが。自分でも嫌になるほどガキくさかったとは思うけど、だからといって反省はできない。まだぜんぜん、もやもやしてるし……。
顔を見たとたんにむすっとしてしまう自信があるよ。おかーさんはそれでもたぶん能天気で、サユが困るんだろう。
そこまで予想できていながらドアを開けるなんて、あたしにはとうていできっこない。
「しょうがねえな」
ちょっと考えたあとで、おじさんがつぶやいた。
「ほんとに手のかかる親子だな。あきれる」
文字どおりあきれた顔でそう言うと、おじさんはのっそりとリビングを出ていった。よもぎもそれについていった。
広いリビングにひとりぼっちでいるのはなんとなく居心地が悪くて、やっぱりあたしが出たらよかったってすぐに後悔したよ。ほんの少しだけ。
玄関から話し声が聞こえる。おかーさんの声だ。サユの声だ。おじさんの声は、低いからか、あんまり聞こえないな。