へたりこんだままあたしを見上げるその目は心なしかキツめで。もともとキツい感じの美人ではあるけど、おかーさんのきれいなふたえの目が、いまはもっとつり上がっているような。
まずいね。これはたぶん、わりとマジで怒ってる。
「ていうかさぁ、電話くらい出なよ? 自転車かっ飛ばしながらずっと鳴らしてたのに」
「あ、スマホ部屋に置きっぱだ。きのうから充電器つないだまんま」
「もうっ。祈はイマドキの子のくせにスマホに執着してなさすぎ。平成生まれでしょう?」
言いながら大きくため息をついたおかーさんが、ぱんとスカートを整えて立ち上がる。
だって、しょうがないよ。スマホはあんまり好きじゃないんだ。
どうしてもさみしくってたまらない夜、思わずおかーさんに連絡しちゃいそうになるから。
言えないし言わないけど、そういうのもあって、普段からあんまり触らないようにしてる。友達とも必要最低限の連絡しかしない。SNSもしない。友達が多いってわけでもないから、そういうスタンスでもなんにも困らない。
でも、おかーさんには、肌身離さず持っておけって言われる。仕事中はあたしからの連絡になんて取りあってくれないくせにね。親ってけっこう勝手なことを言う。
「ていうか、なんかえげつないにおいが立ちこめてるけど」
言われると思った。ぎくって音が頭に響いた気がした。
「うん。カレーつくった。……焦がしたけど」
「え、うそでしょ!」
においのモトをたどり、やがて鍋の前に移動したおかーさんが、真っ黒なそれを見下ろしている。
「あっはっはっは!」
そしてすごい勢いで笑った。びっくりするのを通り越してこわかった。
「なにしてんのあんた? ちょっとおもしろすぎじゃない? 学校休んで料理の特訓でもしてたワケ? まっずそう!」
焦げカレーのせいで苦い口が、ぽかんとあいたままふさがらない。笑いすぎだ。まずそうってなんだ。確実にあなたからのDNAだっての。