でもそれを嫌だと思えない。ぜんぜん思えない。

たぶん、ほんとは知ってほしいし、知りたい。

もっといろんなこと、お互いのこと、いままでより急速に、急激に――そんなことまで思ってしまっている。


なんでだろ。このひとは自分のことあんまり語ろうとしてくれないから、よけいにかな?


「ねえ。和志さんはいつ33歳になるの?」


思いきって訊ねてみると、おじさんはカウンターの内側から目だけをちょっとこっちに向けて、すぐに視線を手元に落とした。


「10月10日だけど、おまえ、いまのは悪意しかねえな」

「そんなことないよ」


ただ、いまさら誕生日なんかを聞くのはちょっと気恥ずかしくて、おかしな言い方になっちゃっただけだ。


「あたしも和志さんの誕生日お祝いする。だからそのときはまた、いっしょにしゃぶしゃぶしようね」


おじさんの33回目の誕生日を迎えるころ、この男のもっと奥深くまでを、あたしは知れているんだろうか。
よくわからない表情の、言葉の裏側を、覗けているんだろうか。

たとえばこの不精ひげが生えてくるずっと前の少年時代のことなんかも知れちゃったりしてるのかな?

そもそもこの男に少年時代なんてものがあったのかもあやしい。まずはそこから聞いてみないとな。