そんなにまじまじ見ないでほしい。なんだかちょっと呼吸がしづらいよ。
でも、不思議と、その視線から逃げようとはまったく思わなかった。むしろ、吸いこまれそうなその感覚が心地よくて、あたしも彼をまっすぐに見つめ返していたと思う。
「祈」
もう一度名前を呼ばれる。それと同時に、ごつごつした大きな手があたしの頭の上に乗っかった。
「なんか、引っかかってること、あるだろ」
確かめるようにおじさんは言った。
「なんかあったんだろ? そういう顔してるよ、おまえ」
おじさんが敏感なのか、あたしがわかりやすいだけなのか、どっちかな。
でもいまはそんなことどうだっていい。そんなこと考えたって意味がない。
だからただ目の前の男を見つめた。じっと。どうしたって目が離せなかった。
やがてその輪郭は徐々にぼやけていき、頬を伝う温度に気付くころにはもう、あたしはすでにしゃくりあげていた。
「ヤなこと……いっぱい、言われた」
ダメだ。言葉が、気持ちがあふれ出してしまう。
「あたしが学校に行ってないの、おかーさんのせいみたいに言われた。お父さんがいないの、ワルイコトみたいに言われたっ」
思い出すだけで吐き気がする。くやしくて体が震える。
「あたし、うまく闘えなかった。言われっぱなしだった。マジョリティーの安全地帯で生きて、コッチ側を見下してるようなしょうもないやつを、あたし、ぶっ飛ばせなかった、ぶっ飛ばせなかった……!」
最後はほとんど叫んでいたと思う。気付けば両のこぶしでおじさんの胸を何度も殴っていた。
おじさんはずっと黙っていた。