きょうは惣菜を買って帰ろうと言い出したのは、毎日メシをつくれとあたしに命じたはずのおじさんだった。

でもきょうはたしかにごはんをつくれる気力なんか残っていなかった。心も体もどっと疲れてる。おじさんはそれを察してくれたのかもしれない。でも、やっぱりいつものポーカーフェイスで、なんにも言わないから、ほんとのところはよくわからない。

お惣菜のからあげはやっぱりあたしがつくるよりも何倍もおいしくて、なかなかくやしいね。



「ほら。まだ苦かったら砂糖足せよ」


手渡されたマグカップのなかには、優しい茶色のホットココアが揺れている。おじさんがいれてくれたそれをひとくち飲むと、じんわりと優しい甘さが体中に広がるようだった。


「じゅうぶん甘いよ。あたし好み。すごいね」

「そりゃよかった」

「ありがと」


おじさんはなにも答えないでキッチンに戻っていく。洗い物をしてくれるみたいだった。


ソファに腰かけ、ぼうっとテレビを見た。刑事もののドラマが流れている。1話も見たことがないから内容はよくわからないけど、ほかにすることもないので、ココアを飲みながら眺めていた。

よもぎが足元で眠っている。呼吸をするたびに揺れる、ふわふわな毛に触れようと前かがみになると、ふいにあたしの左側におじさんがどかりと腰かけた。


「祈」


名前を呼ばれる。はっとして顔を上げると、おじさんはすでにあたしを見下ろしていて、おのずと見つめあうかたちになってしまった。