反射的に顔を上げる。
よく知っている声であたしを呼んだのは、やっぱり、よく知っているやつだった。
「三宅……?」
三宅純矢。去年から同じクラスの男子。水泳部のエースで、サユが一歩的にライバル視している男。奥ぶたえのつり目と直毛の黒髪は相変わらずだけど、ちょっと見ないあいだにずいぶん焼けたな、と思った。
まるでオバケでも見たかのような目であたしを見つめている三宅を、あたしもじっと見つめ返す。
ああ、制服だ……。なつかしい。
「なにしてんの、こんなとこで」
かすれた声でそう言われた。ちょっと怯えたような口調だった。やっぱりオバケだと思われているんだろうか。
「そっちこそ」
あたしはいつもの調子で返事をした。
すると、どこかほっとしたように息を吐いた三宅が、ずかずかと大股でこっちに歩いてきた。そしてさっきとはぜんぜん違うふうに口を開く。
「おれはフツウに学校帰りだよ」
オバケじゃないってこと、やっとわかってもらえたっぽい。
「部活は?」
「休み。コーチの都合で今月から水曜休みになってさ」
月が替わっていたことに全然気が付かなかった。いつの間にかもう6月。
学校に行かなくなってどれくらいたつのかな。そういうこと、知らず知らずのうちに考えないようにしていたのかも。
「ああでも、中澤、生きてた。よかった。元気そうじゃん」
唐突に、冗談みたいな台詞を、三宅は大まじめに言う。ちょっと笑って、うれしそうに言う。
その瞬間、あのおかしな罪悪感が顔を出した気がした。