『ガトーショコラストロベリーアンドホイップ』とかいう、妙に長ったらしい名前の、カロリー爆弾みたいなやつを選んだ。いちばん高かったからこれに決めた。おじさんはメニューが読めず困惑していた。おかしかった。笑ったら怒られた。


「おとなしくここで食ってろ。なんかあったらケータイ鳴らせよ。いいな」

「はぁい」


喫煙室の近くのベンチにあたしを座らせると、おじさんはさっさと煙草を吸いに行ってしまう。

そのうしろ姿を横目で見ながら、ぺろりと生クリームを舌ですくった。甘すぎて舌がしびれる。


きのう、お風呂から上がると、キッチンは嘘のようにきれいに片付いていた。それどころか割れたお皿の残骸がどこにも見当たらなかった。けっこういろいろ探したよ。ごみ箱のなかも見た。それでも、どこにもなかった。

おじさんが、あたしの目につかない場所に隠しておいてくれたんだ。あたしが気にすると思って、そうしてくれたんだ。おじさんはそういうことをしちゃう男だ。知っている。

いちおう、いくらだったのかとか、どこで買ったのかとか、聞いてみたよ。でも教えてくれなかった。覚えてないって言われた。

もう気にすんなって頭を乱暴に撫でられたから、あたしもそれ以上はなにも言えなかったよ。


クレープ、ちょっと甘すぎた。生クリームの入ってないやつにすればよかったな。失敗だ。買ってもらっておきながら勝手だけど。


「――中澤?」


中身がこぼれないよう必死にかじりついていると、突然、呼ばれた。そんなにめずらしい苗字でもないけど、あたしのことだってすぐにわかった。