――リビングがなんともいえない香りに包まれていた。


「焦げてんじゃんか……」


信じらんない。うそでしょ。こんなのってアリかよ?

鍋のなかで黒っぽくうずいているカレーを、しばらくぼう然と眺めていた。知らないうちに濡れた髪からバスタオルがするりと落ちている。


しまったな。火を止めることをすっかり忘れて、優雅に半身浴なんか楽しんだりするから。

そりゃあ2時間も放置していたら焦げるに決まっているよ。IHヒーターは途中で勝手に止まってくれていたみたいだけど、それもすでに手遅れだったらしい。

おいしくなれなかったカワイソウなカレーが、うらめしそうにあたしを見上げているような気がした。


「サイッアク……」


鍋にルウを投入したところまでは完璧だったのに。

『切って煮るだけ』のカレーすらまともにつくることもできないんじゃあ、これは完全に料理のセンスはゼロで間違いなさそうだ。これから嫁のもらい手が見つかるかしら。

それとも、あたしもおかーさんと同じに、男の人には頼らないで生きていくのかな。

無理だろうなぁ。あたしとおかーさんじゃちょっとモトのスペックが違いすぎるもん。


そんなくだらないことを考えながら、もうできあがって冷蔵庫にしまってあった野菜サラダを取り出して、食卓にならべる。ついでにスプーンとフォークも。


「しょうがないか。食べよう」


白いお皿に白いごはんを盛る。その上に、カレーと呼ぶには申し訳ないくらい真っ黒ななにかをぶっかける。

あーあ。もう見た目からして絶対においしくないのまるわかりで、お腹はすいているのに、ごはんがぜんぜん楽しみじゃないよ。