あたしはいま、ワルイコトをしてるのかな?
学校に行くって、そんなにエライ? 学校に行ってるみんなのほうが、あたしよりもエライ?
サボるのは、休むのは、遊ぶのは、悪かな?
がんばったらがんばっただけカーストが上がって、エラくなるの?
じゃあ、おじさんは、どうなんだろ。
自分の仕事を『遊んでるみたい』って言ったおじさんは、どうなんだろ。
がんばっていないわけじゃ、ないと思う。時にはどうしようもなくキツイことがあるのかもしれない。もしかしたらやめたいって思ったことだってあるのかもしれない。
それでも、思いついたときにふらっと出かけていくおじさんが、マイペースに生活しているおじさんが、決して無理のないおじさんが、あたしにはすごく素敵な生き物に見える。かっこいいって思う。こういう生き物になりたいって思う。
好きなことを、好きなように、好きなだけ――
あたしもそんなふうに生きていきたいって、おじさんを見ていると、なんとなく思うよ。
たとえば、みんなと同じことを、同じようにできなくたって。
そんなことで罪悪感を覚えちゃうような、かっこ悪いやつにはなりたくない。
「――できた!」
染料になる液体があたたかいって、知らなかった。冷たいままだときれいに色が入ってくれないんだってさ。
どこからどう見ても黒色だった紫キャベツの染料に、ふたりぶんの手ぬぐいを浸して、10分くらい。おじさんが手ぬぐいを引き上げた。
優しいピンク色に染まっているそれを見て、思わず声を上げたあたしに、おじさんは「まだだ」と言った。
「乾かさねえと」
ゴム手袋を装着したおじさんが抱えている手ぬぐいからは、ぽたぽた、ピンク色のしずくが滴っている。