おじさんはひとつの棚に向かった。色とりどりに染まった手ぬぐいが、ていねいにたたんであり、色ごとに積み上げてあった。
「きれいな色だね」
いちばん手前にある、優しいピンクを手に取る。ピンクというにはちょっと申し訳ない色。もっと和風の、淡い色。
「それは紫キャベツで染めてる」
「うそ! でもムラサキじゃないね? ピンクになるの?」
「いや、紫になるよ。紫キャベツのムラサキを抽出して、そこに酢をくわえると、そんな感じの赤になるんだ」
これ、ピンクじゃなくて赤色なのか。桃色とかでもなく、赤なのか。センショクの世界はむずかしい。
お酢は酸性だから化学反応を起こして紫が赤に変わるんだとかなんだとか、おじさんは説明した。理科の授業を聞いている気分だった。
「いいね、この色。かわいい」
「やっぱり祈はピンクが好きなんだな」
それは昔の話で、いまはべつにそういうわけでもないんだけど、まあ、いいか。
「じゃ、その色でいくか」
おじさんはひとり言みたいにこぼした。
「そろそろ糊も乾いてるな」
またひとり言みたいに言って、おじさんがさっきの作業台へ向かう。ついてこいとも、待ってろとも言われないから、あたしは黙ってうしろをついて歩く。おじさんはのっそり歩くけど大股だから、あたしはちょっと早歩きになる。
変な感じ。
あたしって学校にも行かないで、こんな平日の夜に、こんな場所でなにしてるんだろって、冷静になると、ちょっと罪悪感を覚える。