リビングに行くと、千円札が一枚、テーブルの上にさみしそうに横たわっていた。

そういえばお腹がすいてる。夜ごはん、なに食べようかな。お昼は寝ていてお金使わなかったから、千円ぜんぶ夕食代にまわせる。


なんかつくろうかなぁ。

とか言いつつ、料理なんてまったくできないけど。

家事は一応ひと通りできるつもりだけど、料理だけはからっきしダメ。こればっかりはおかーさんのDNAを受け継いでしまった。

どうせ似るなら、美人なところとか、強いところとか、要領がいいところとか、そういうのがよかったんだけどな。

あたしは、おかーさんとは似ても似つかない、平々凡々、どこにでもいる女子高生だ。


冷蔵庫をチェックすると、ニンジンとレタス、あとはじゃがいもが少しあった。

今夜は切って盛りつけるだけの野菜サラダと、切って煮るだけのカレーライスにしよう。このメニューならあたしの料理スキルと千円だけでどうにかなりそうだ。

それに、カレーなら置いておけるし、おかーさんも食べてくれるかもしれない。


おかーさんはだいたい、夕食は外食で済ませてくる。自分が料理ダメっていうのももちろんあるんだろうけど、ごはんなんかつくってる時間がないんだ。つまりそれほど帰りが遅いってことだ。

そのくせ、あたしが外食とかコンビニで済ませると、『なんかつくったらいいのにぃ』とか勝手なことを言ってくる。

あたしがつくったら、おかーさんもうちでごはんを食べるかな? 外で食べてくる時間が減るぶん、早く帰ってきてくれるかな?