それにしてもまるで違う世界に来たみたいだなあと、いろいろ物色しながら思う。
桶のほかに、四角い小さなプールみたいなものもいくつかあるし、大きいテーブルとか、物干し竿みたいなものもある。棚の上には壷みたいなものが並べてあったりもする。
はじめて見るものばかりだ。胸がどきどきしている。
「おもしろいか?」
建物内をじろじろ見てまわるあたしを、おじさんがじっと眺めていたということに、しばらくのあいだ気が付かなかった。それくらいあたしは興味津々に、夢中でいろいろ見ていたんだと思う。
なんとなく気恥ずかしい気持ちがして、「べつに」なんて答えた。でもすぐに後悔した。
「うそ」
おじさんを振り返る。
「おもしろいよ。おじさんが『遊んでるみたい』って言ったの、なんかわかる気がする」
「じゃ、おまえもちょっと遊んで帰るか」
「え?」
手渡されたのは長方形の白い布。フェイスタオルをもう少し長くした感じのものだ。ぺらぺらに薄いそれを、顔の前にかざすと、向こう側の景色が白くかすんで見えた。
「手ぬぐいだよ。もしかしてはじめて見た?」
「そんなことないもん。バカにしてるでしょ」
「びっくりした。平成生まれは手ぬぐいも知らねえのかと思った」
さっき見た桶を少し小さくしたようなバケツを、おじさんはあたしの前にずらりと並べた。ひとつずつ違う色の液体みたいだけど、ほとんど全部、黒色に見える。
「ほら、好きなように染めてみろ」
突然そんなこと言われても、なにをしたらいいのか、ぜんぜんさっぱり、ちんぷんかんぷんなんだけど。