あたしとおじさんは、ナチュラルウッドの、こぢんまりとした正方形のテーブルをはさんで食事をする。
食事のときはいつも、あたしの膝の上にはブランケットが横たわっている。おじさんがわざわざあたしのために買っておいてくれたものらしいから、けっこう重宝している。
それに、薄い水色がすごくきれいだからわりと気に入っているんだ。やっぱりおじさんは“プロ”なんだなあと思う。色のプロ、染色作家。仕事のことはよく知らないけど。
食事のあいだ、会話はあんまりない。誰かと向きあってしゃべるのも、なにか食べながらしゃべるのも、得意じゃないから。それはたぶんおじさんも同じだと思う。なんとなくだけど、人と自分の似ているところって直感でわかる。
きょうも例のごとく静かな食卓だった。よもぎもソファのほうで自分のごはんを食べている。
「野菜でモノが染められるって、知ってるか?」
そろそろ食べ終わりそうだというとき、おじさんが言った。唐突に。
彼のお皿はすでにきれいに空っぽだった。なるほど、自分だけ食べ終わって暇だからしゃべりだしたんだな。
それでも、どんなに自分が早く食べ終わったとしても、おじさんはあたしが食事を終えるまで決して席を立たない。いままでに例外なんてなかった。そういう男なんだ。
この1週間で、おじさんのこと、ちょっとずつ知れてきてる。
「なにそれ。知らない」
答えて、ポテトサラダの最後の一口を放りこんだ。
「おまえがいま食ったニンジンも、染料になるんだよ」
はじめて聞く、おじさんの仕事の話。どうして突然こんな話を始めたんだろ。
不精ひげつきの顔をまじまじ見つめると、「見んな」と冷たく言われた。それから間髪入れずに「いいから食ってろ」と言われたので、おとなしく食事を続行するにした。