しゃぶしゃぶなんて、最後にしたのはいつだろ?
おかーさんはどうもすき焼き派らしい。だって、すき焼きの記憶はけっこうあるのに、しゃぶしゃぶの記憶ってそんなにない。たぶん数えるほどしかしたことないんじゃないかな。
そういえば、あたしの誕生日とか、お正月とか、その他もろもろのお祝い事とかとにかくいろいろ、いつもすき焼きだったっけね。しかも決まってチョット高いお肉だって、おかーさんはうれしそうにしていたっけ。
「おじさんはしゃぶしゃぶ派?」
キャベツの千切りの上に、鮮やかなオレンジ色のフレンチドレッシングをかけながら、なんとなしに訊ねた。
「なんだよ、それ。なんか派閥でもあんのか」
言いながら、おじさんがくつくつと笑う。
「すき焼き派としゃぶしゃぶ派と、なんか、こう、あるじゃん? あるよね?」
「聞いたこともねえ」
うそだ。32年も生きてきたくせに、うそだ。
「じゃ、俺は焼肉派」
しゃぶしゃぶじゃないのかよ。ていうか『じゃあ』ってなんだよ。
「新党発足したね。おじさんは、野党だね」
「バカなこと言うなよ。焼肉は昔から圧倒的与党だ。しゃぶしゃぶ派のみなさんも、すき焼き派のみなさんも、焼肉には満場一致で納得だろ」
そうかな。おじさんって、意外にそういうこと考えながら生きてるんだな。中立な感じ? すき焼きにもしゃぶしゃぶにも傾倒しない姿勢、あたし、嫌いじゃないよ。
「じゃあ、さっきの話……今度しゃぶしゃぶするかって話、しゃぶしゃぶやめて焼肉する?」
おどけたように言い残して、ふたり用のダイニングテーブルにお皿を運ぶ。おじさんはポテトサラダと箸を持ってきてくれた。
「それとこれとは話が別だろ。しゃぶしゃぶは決定だ」
なんだそれ。結局おじさん、しゃぶしゃぶ派なんジャン。