「おじさんは、おかーさんの部下なの?」
いろんな疑問がぽこぽこと浮かんできた結果、口をついて出たのはちょっと的外れな質問だったかもしれない。
「昔な。部下だった、が正解」
「いまは違うの?」
「そうだな。俺はもうとっくにゆりさんのいる事務所やめてるし、いまは関係ねえのかも」
風が吹く。よもぎがぶるると体を震わせた。おじさんはそんな彼女の体を撫でて、優しく目を細めた。
「でも、ゆりさんにはこれでもかってくらい世話になったし、いまでもいろいろと面倒見てもらったりしてるから、たぶん一生、頭は上がらねえかな」
ふうん、という気のないあたしの返事に、おじさんはなんの反応もしなかった。
「だから、おじさんはあたしの面倒見てるの? おかーさんに『頭が上がらない』から」
ちょっと驚いたような顔を浮かべて、おじさんがこっちを向く。その瞳から逃げるように目を逸らした。目の前を流れている川が、真昼の太陽を反射して、まぶしいほど白く輝いている。
ふと、頭の上に優しい温度が乗っかった。
「それだけじゃねえよ」
おじさんがあたしの頭を撫でてくれている。ちょっと居心地悪そうに繰り返される前後の動きに、なんともいえない感情がこみ上げて、ますます顔を上げられなくなった。
子ども扱いされてる。
べつに、子どもなんだけど。あたしは子どもで、おじさんは大人だから、こういうのは仕方ないのかもしれない。
「俺は、まったく興味のないやつといっしょに暮らしたりなんかはできねえよ」
しょうがねえガキだって慰められているのかな。
でも、おじさんはきっと嘘をつかない男だから、これはその場しのぎの言葉とは違うと思う。