よもぎを隣に抱いて、ちょうどクロワッサンを食べ終えそうだというときに、玄関のほうからガチャガチャと音がした。おじさんが帰ってきた音。
時計はまだ朝の9時半を指している。いったい今朝は何時に出ていったんだろう。
「よお、ただいま」
おじさんが、部屋に入ってくるなり低い声でそう言うと、よもぎはいとも簡単にあたしの隣を離れて彼のほうへ行ってしまった。
「おかえり。おはよう」
「おはよう。まだパジャマ着てんのか」
まだって、だって、まだ9時半だもん。
ああでも、ちょっと前までは、この時間にはしっかり制服を着て授業を受けていたんだっけね……。
「早いね、ずいぶん」
言って、一気にコーヒーを飲み干した。もうすでにぬるくなっていた。
「そうか?」
おじさんはよもぎをわしゃわしゃ撫でながら、興味なさそうに言った。
おじさんの生活はあまりにも変則的すぎる。同居を始めてそろそろ1週間がたつけど、いまだにあたしは彼の生活リズムをぜんぜん把握できていない。
朝早く出ていく日もあれば、昼過ぎまで寝ている日もあるし。きょうみたいに昼前に帰ってきたり、夜中まで帰ってこなかったり。しかも予告ナシだから、いつも夕食の準備には困っているんだ。
「ちゃんと朝メシ食って、えらいな」
マグカップとお皿を下げながら、おじさんが言った。
子ども扱いされているような気がした。なんて言っていいかわからなかったから、アリガトウとだけ、ぶっきらぼうに答えた。お皿を下げてもらったことに対するお礼ね。