よもぎは『よし』と言うまでごはんを食べない。だから、彼女の前へフードを盛った彼女専用のお皿を置いても、決してがっついたりしない。おじさんのしつけのたまものだ。

おじさんの真似をして『お手』と『おかわり』をさせると、よもぎは文句も言わず(本当は言いたいのかもしれないけど)、気高く、美しく、しなやかにしてくれる。


「よしっ。食べていいぞお」


本当にかわいいやつだ。はぐはぐとごはんを頬張るその頭を撫でると、彼女は答えるようにあたしを見上げた。


「……よもぎは、さみしくない?」


ひとり言みたいにつぶやいた。


「お母さんがいなくなってさ、さみしいなって思ったりしなかった?」


自分でもバカバカしい質問だとは思う。よもぎは不思議そうにあたしを見上げている。

よもぎがしゃべったらいいのになあ。さみしいよって、いまここでそう言ってくれたら、あたしは泣きながらよもぎを抱きしめちゃうかもしれない。


クロワッサンを一口大にちぎっては口に放りこんだ。そしていちいちコーヒーで流しこんだ。砂糖とミルクをたっぷり入れた、甘ったるいコーヒー。

甘いクロワッサンとコーヒーが口のなかで混ざりあって、あまりの甘さに舌が溶けてしまいそうだ。


わん、と、よもぎが吠えた。吠えたというより、鳴いた。


「そうだよね。さみしくなんかないか。よもぎには、おじさんがいるもんね」


よもぎがあたしの足に頬をすり寄せ、目を閉じる。

まるで慰められているみたいだった。嫌な意味じゃないよ。だってすごく、優しい温もりだった。


あなたももう家族だよ、私とカズユキがいるよって。なんだかそう言ってくれているみたいだ。

やっぱりよもぎはセンパイで、あたしはコウハイなんだと思い知らされた。