おじさんの朝は、早かったり遅かったり、日によって違う。

きょうは早い日だった。起きてリビングに行くと、テーブルの上には新聞が無造作にほっぽってあり、キッチンにはグレーのマグカップが水につけてあった。おじさんが新聞を読みながらコーヒーを飲んだしるし。


それを横目に見ながら冷蔵庫を開ける。同時によもぎが足にじゃれついてくる。


「よもぎオハヨウ。朝から元気だねえ」


ゴールデンレトリーバーはイギリスの犬種なのに、『よもぎ』なんていう和風な名前なのは、彼女の母親が『さくら』だったかららしい。さくらもちの娘で、よもぎもち。

さくらは、おじさんが中学に上がるのと同時にやって来て、25歳の冬に亡くなったと言っていた。7年前だ。

12歳で亡くなったってちょっと早い感じがするよ。でも、おじさんはそのことについてそれ以上はなにも言わなかったし、あたしもなんとなく聞けなかった。


それに、おじさんにも中学時代があったのかって、なんかそっちのほうが気になったよ。

彼は、どんな少年、青年だったんだろう? なにを学んで、なにに興味を持ちながら、いまのおじさんが形成されたんだろう?


「よしよしよもぎ、いっしょに朝ごはん食べようね」


あたしが言い終わる前に、よもぎは待ってましたと言わんばかりにソファの隣でおすわりをした。

どうしても見るたびに笑ってしまう。だって、その姿はため息が出るほどかっこよくてきれいなのに、しっぽだけは我慢できないようにせわしなく動いてるんだもん。ほんとにかわいいなぁ。


「はいはい、ちょっと待ってね。祈も自分のパンとコーヒーするから」


笑って言いながら、湯気が立ちこめているいれたてのコーヒーにミルクと砂糖を入れ、冷蔵庫から取り出したチョコレートのクロワッサンを皿に乗せた。

同時進行でよもぎのごはんも用意してやる。ちゃんと一食分ずつの量でタッパーに小分けされているフードには、いつも、おじさんのよもぎへの愛情を感じる。