急ごしらえな感じはどうにも否定できないけど、けっこう、なかなかの部屋だ。ピンクと白が基調の、なにかに例えるとするならば、そう、お姫様――みたいな。
冗談かと思う。
本当にこの部屋をつくったというの? この無口でやる気のなさそうなおじさんが?
「ジェーケーとやらの好みは、わかんねえから。ましてや会ったこともないガキのことなんて」
言い訳のようにおじさんは言った。その声に『JK』という単語はあまりに似合わなくて、鳥肌が立った。
「でも、ゆりさんが、言ってたから。祈はピンクとかレースとか好きだって。あと、ココアとチョコレートも好きだから切らさないようにしてほしいとも言われたんだが、本当かよ?」
「うん……ココアとチョコは、好きだよ」
でも、ピンクとレースを好きだってのは、もうずいぶん昔の話だよ。あたし自身も覚えていないほど、遠い、遠い、うんと昔のこと。
そういえば、幼稚園のころは、当時流行っていたアニメの主人公のお姫様に憧れていたんだ。かわいくて強いお姫様だった。素直で自由なお姫様だった。
『リリーになりたい』があたしの口ぐせだった。リリーは彼女の名前だ。
ああそっか。おかーさんのなかのあたしは、まだあのころのままなんだね。
そう思うと、無性に悲しかった。さみしかった。
でも、そんな昔のことを覚えていてくれてるのがうれしいって気持ちも否定できないんだから、くやしいよ。
「……あたしさ、冷え性だからさ。ブランケットも欲しい。必需品なんだ」
声がかすれる。おじさんはゆっくりした動作であたしを見て、それから「ある」と言った。
「え?」
「ブランケットも用意してある。新品の、おまえ専用のやつ。それもゆりさんに言われてたから」
準備がよすぎて困る。やっぱりおじさんのところは居心地が悪いじゃんって、文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたのに。そしたらうちに帰る口実になるかと思っていたのに。
サイテーだ。だって、この少女趣味の部屋以外は、もう完璧に完全なんだもん。