おじさんの車はかわいらしいコンパクトカーだった。きれいな水色が似合わなくて笑うと、この色を気に入って買ったんだと言われてしまった。

その小さな箱に、ボストンバッグとキャリーバッグ、それからあたしを積んで、おじさんは運転席に乗りこむ。


サユはすでに帰っていった。3軒お隣なだけだから、30秒ほどで帰れるけど、ちゃんと送った。これは毎週月曜日欠かさずしていること。



「ねえ、どこなの? おうち」

「ついたらわかる」


そうだけど。そんなふうな言い方しなくても、いいじゃんか。せっかくこっちが会話をしようと思っているのに、そんなふうに面倒くさそうに終わらせなくてもさ。


だからもう黙っておいた。しゃべるのがアホらしいよ。

目を閉じる。音だけが残った。エンジン音、対向車とすれ違う音、タイヤが地面をこする音。それ以外にはなにもない。車の揺れが気持ちいいなあ。


20分ほどたったころ、いきなりエンジンは止まった。


「ついたぞ」


目をあけると、おじさんはすでにこっちを振り返っていて、あたしの顔をじっと見ていた。びくっとする。


「寝るの早いな」


おじさんがのんびり言った。


「寝てないよ……」


言いながらあたりを見渡す。たぶん、屋内だった。右にも、左にも、それ以外にも、けっこうな数の車が停まっている。


「マンション住まい?」


運転席から降りてボストンバッグを引っ張ろうとしているおじさんに問うと、そうだよと、とても短い返事。


「いいからおまえも降りろよ」


ほんと、会話が続かないな。