サユが荷造りを手伝ってくれるらしい。そのあいだ、おじさんは外で煙草を吸うって。吸い終わったらすぐ出るから早くしろよ、なんて無茶を言われた。
煙草一本がなくなるあいだに準備なんてできるか。
きっと冗談のつもりで言ったんだと思う。おじさんはよくわからない男だ。
「――でも悪いひとじゃないと思うんだよね、わたし」
白と黒のボーダーのワンピースをていねいにたたみながら、サユが言った。
「嘘つかなさそう」
たしかに、それはなんとなくちょっとわかる。すごく優しいひとって感じはしないけど、だからこそ、おじさんは嘘ってつきそうにないね。
したくないことはしなさそう。嫌いなものは食べなさそう。面倒なことは面倒って言いそう。
ということは、オムライス、食べられるくらいには口に合っていたのかな。
あたしを預かることも、そんなに面倒だと思っていないのかな。
わからないけど、これからいっしょに暮らして、いろいろ知っていくのかな、おじさんのこと。『あかの他人』じゃなくなっていくのかな。
そういうことを考えると途方もない気がして、どうにもそわそわした。
「あ。でもなんかされたらすぐ連絡してくるんだよ!」
「なんかって?」
「決まってるじゃん。教育上よくないことだよ」
そんなこと、あのひとは頭の片隅にすらないような気がする。そんな感じする。あたしになんか興味なさそう。というより、あたしだけじゃなくて、いろんなことに興味なさそう。
「ゆりちゃん、どうしていーちゃんのこと、佐山さんに預けようって思ったんだろうね」
知らないよ。そんなの知りたくもない。
答えるかわりにキャリーバッグを勢いよく閉じた。それを合図にサユがボストンバッグを閉めてくれた。
あれもこれも入れていたら、けっこう大きい荷物になってしまったよ。