サユが楽しそうに笑う。
「そこは嘘でも『ぜんぜん平気だ』って言わないとぉ」
おじさんは小さく、ため息のようなものを吐いた。
「ゆりさんのお願いだからしょうがねえだろ。あのひとこえーから」
わかる。おかーさんは怒ると鬼のようにこわいよね。普段があんなだからよけいに。
おじさんもおかーさんに怒られたりしているのかな。もうおじさんなのに、おかしい。おじさんはどんな顔でおかーさんに怒られているんだろう。
「それに……」
おじさんが続けて口を開いた。ちょっと考えているみたいな言い方だ。
「それに?」
身を乗り出したのはあたし。続きを聞きたいって、なんとなく思ったよ。なにかほかに理由があるなら聞いておきたい。
そんなあたしをおじさんは驚いたようにまじまじと見つめて、それからすっと目を逸らした。
「べつに」
べつに、だって。落ち着いた低い声にその言い方はどこか似合わなくて、胸のあたりがむずむずする。
「いいから早く決めろよ。俺のところに来るのか、来ねえのか」
「え? もう決定してるんじゃないの?」
「ゆりさんのなかではほぼ決定事項みてえだけど、おまえのことなんだから、最後はちゃんと自分で決めろ。いつまでもオカアサンに決めてもらってばっかりじゃなくて」
かあっと顔が熱くなった。
べつに、なんでもかんでもおかーさんに決めてもらっているわけじゃないし。むしろ勝手に決めてきたのはそっちサイドじゃん。
なんだよ。むかつくなあ。なんだよ。
「……行くよ」
考えるよりも前に口が動いていた。
「行くよ、おじさんのところ。荷物まとめるから待っててよ」
投げやりになってるつもりはなかったけど、投げやりな言い方になってしまって、かっこ悪い。おかーさんが悪いんだ。おかーさんが、あんまりしょうもない提案なんかするから……。
あたしがいなくなってさみしい思いをしたらいいんだ。祈、お願いだから帰ってきてって、泣いたらいいんだ。