おじさんの名刺はとてもカラフルだった。といっても、かわいいポップな感じではなくって。
白い長方形に、まるで優しく絵の具を流しこんだように、色とりどりな線が泳いでいるような。なんていうか、すごくお上品な仕上がりで、あんまり顔に似合わないなぁと失礼なことを思う。
「――ソメイロ?」
サユの声がぽつりと落ちる。
「違う、センショク」
すかさずおじさんが答えた。
なんの話だろう……と思って名刺に目を落としてみると、そこには『染色作家』という四文字が控えめに記してあった。
たぶん、これのことだと思う、センショク。
「へえ……」
あまり興味がないのか、サユはそれ以上『染色』についてなにも突っ込まなかった。ただ読みあげただけだったのかな。でも、たしかに読みたくなる気がする、ソメイロって。
おじさんもそれについて説明したりしなかった。熱く語られたところで、たぶん女子高生にはツマラナイ話だろうし、よかった。
「ごめんサユ、とりあえずごはん食べよう。冷めちゃったからあっためなおすね」
「え!? これ以上の説明ナシ? わたし名刺渡されただけなんだけど……」
「食べながら話すから。おじさんも、よかったらドーゾ」
サユの右ななめ前の席の椅子を引くと、おじさんはちょっと戸惑ったようにあたしを見た。
「……夕飯? 3人で?」
だって、誰かのせいでおあずけ食らって、もうお腹ペコペコなんだもん。お腹がすいてたら話だってまともにできやしないよ。