あんな捨て台詞、最低だ。あたしは嫌になるほど子どもだ。くやしい。なにがこんなにもくやしいのかはわからないのが、もっとくやしい。

長い長いため息がこぼれた。それから長い廊下を歩いて、もう一度、玄関のドアを開ける。


煙草を吸うひとなのか。

彼は、右手の人差指と中指のあいだにあと半分くらいの煙草をはさんで、紺色になりかけている空をぼんやり見上げていた。

なにを考えているんだろう。

この男が、いったい、なにを教えてくれるっていうんだろう。


「……とりあえず、ドーゾ」


気だるそうな顔がこちらを向く。彼は目だけであたしを確認すると、ポケットから携帯型の灰皿を取り出して、手に持っている火を消した。

ポイ捨てしないんだな。

たったそれだけのことなんだけど、たったそれだけのことで、また少し警戒心が溶けた。



「おかーさんに聞いてみたら、本当だった。おじさんの話」


壁に右手をついてスニーカーを脱いでいる、おじさんの後頭部に向かってそう言うと、ひとえのたれ目がゆったりとした動作であたしを見上げた。


「そりゃそうだろ。これでウソでしたとか言われたら、俺怒るよ」


でも、あたしみたいなガキンチョにタメ口きかれても、怒らないじゃん。


「ていうかオジサンってのやめてくれよ。こう見えてもまだ32だから、俺」

「32ィ? あたしと15も違うじゃん。おじさんだよ、そんなの」


32歳にしてはちょっと落ち着きすぎているような気がする。まあ、このひとのほかに32歳の誰かを知っているわけじゃないから、なんとも言えないけど。

おかーさんの4つ年下かぁ。おかーさんとはいったいどういう関係なんだろう?