あわてて自室に行き、机のなかを引っかきまわした。たしかかわいいレターセットがあったはず……。

本当はメールで返事をしてもいいけど、せっかくだから手紙を書きたいって思ったんだ。


やがて、うんと奥のほうからレターセットが出てきた。2年くらい前に買った、青い車の絵がついたやつ。なんとなくおじさんの車に似ている気がする。これで返事を出そう。


『和志さんへ

お手紙ありがとう。びっくりしたけどうれしかったです。お母さんもよもぎも元気です。私も元気です。学校にも行ってるよ――』


そこで手が止まった。

ああ、なにを書こうかな? 書きたいこと、伝えたいことはたくさんあるけど、文字に起こすのってけっこうむずかしいね。


『学校にも行ってるよ。ちゃんと毎日。やっぱり学校は好きじゃないけど、前よりは好きになれた気がします。

夢みたいなものもできました。まだ誰にも言ってないけど、フードコーディネーターという仕事を最近知って、いいなって思ったんだ。ほんの少し前まではカレーすらろくにつくれなかったのに、人生ってなにがあるかわからないね。』


「あとは……なんだろ」


おじさん、ありがとう。

世界を変えてくれて。
あたしという人間を、変えてくれて。

たった一色で塗りつぶされていた、つまらないあたしの世界を、いろんな色で染めあげてくれて、ありがとう。


そんなことは恥ずかしくてとても書けないな。また今度会ったときに言おう。今度……いつか、もう少し大人になったら。