帰宅すると、いつもよもぎは勢いよくじゃれついてくる。かわいいやつだ。ただいまあ、と言うと、おかえりい、と答えてくれるように彼女はしっぽをブンブン振った。


「きょうもよくお留守番できたね、クッキー食べよっか」


タッパーに常備しているわんちゃん用のクッキーを見せると、よもぎはうれしそうに2周まわったあと、すぐにおすわりをした。きょうもしっぽだけありえないくらいに振り回している。やっぱりこの姿は何度見ても笑えるよ。


「よしよし。祈も着替えるね」


クッキーをひとつよもぎにあげてすぐ、制服をソファに脱ぎ捨てた。この瞬間が最高に幸せ。制服って動きにくくて窮屈だから嫌いなんだ。

ハンガーにかかっているジャージに着替えた。髪を青いシュシュでひとつにまとめる。そんでエプロンを装着したら、すぐに夕食の準備に取りかかって……。


突然、インターホンが鳴った。ちょうどエプロンのリボンを結んでいる最中だった。

誰だろうね、待っててね、とよもぎに言い残して玄関に向かう。

いつもどきどきする。インターホンを鳴らしたのはもしかしたらおじさんなんじゃないかって、毎回ヘンな期待をしてしまう。きょうだって、もしかしたら、もしかしたらって。



「――こんにちはー、お届け物です!」


でも、ドアの向こうでニコニコ笑っていたのは、やっぱり宅配便のお兄さんだった。いつもさわやか、元気だなあ。


「ここにサインお願いします」

「はぁい」

「あっ、兵庫県の佐山さんからのお荷物です!」


『中澤』の『中』を書いている途中で手が止まった。

顔を上げる。目が合って、お兄さんが笑顔のまま首をかしげる。はっとしてあわててサインを済ませる。

「ありがとうございましたー」と言って去っていくお兄さんを、いつもはていねいに見送るけど、きょうはそれどころじゃないよ。