「あーあ。5時間目、体育だ。やだなあ」


からっぽになった弁当箱を片付けながらうなだれると、サユは信じられないって顔をこっちに向けた。


「なんで! バレー楽しいじゃん」

「サユみたいに運動神経がいい子はね、なにしても楽しいんだよ。あたしは逆なの。しかも6時間目の最初に英単テストだよ、サイアク」


自分で言っていて嫌になった。きょうの英単、そういえば覚えきれていないんだったよ。きのうは寝落ちしちゃって、朝の電車では居眠りしていたから。


「いーちゃん、やっぱり学校楽しくない?」


遠慮がちにサユが訊ねてくる。あたしは大きくかぶりを振った。


「楽しくないよ。ぜんっぜん楽しくない。1学期となんにも変わんない。眠いしダルいしつまんないよ」


でも、と続けた。


「前とは違うなって、なんとなく感じる」


よくわからないけど。でも、学校じゃなくて、自分が変わったんだろうなってことはわかる。

生まれ変わった気分。いま学校に通っている自分は、前の自分とは違うような……。難しいな、うまく言えない。


「たぶん、夢ができたってのは大きいかも」


なんでもなく言うと、サユが飛び上がって声を上げた。


「夢? うそ! なになに、教えて」

「やだよ。叶えたら言う。叶わなかったら、死ぬ間際に言う」

「なにそれえ」


スカートをパンと払って立ち上がると、サユも同じように立ち上がった。無邪気にじゃれついてくる幼なじみは世界でいちばんかわいいと思うけど、さすがにこの季節は暑いな。


「ねえ、じゃあこれだけ教えて。いーちゃんは佐山さんのことが好きなの?」


もう何十回……もしかしたら何百回と聞かれていること。そろそろ耳にタコができそうだよ。


「うーん。まあ、それも、叶えたらね」

「結局それって好きってこと? ねえってばあ」


追いかけっこをするように、いっきに1階まで階段を駆け下りた。4フロアぶんだからさすがに疲れた。途中ですれ違った米田に、「廊下は走んなよ」と苦笑いで言われた。