「いーちゃんのお弁当はほんっとにかわいいなあ!」
ずいっと横から顔をだしたサユが声を上げた。
屋上へと続く階段、ここでサユとお昼を食べることは、入学時からずっと日課だ。なぜかたまにここに三宅がくわわったりもする。
「いーちゃんがお弁当持ってくるようになるなんてなあ。前は毎日購買ダッシュだったのにね」
「でもたまに購買のコロッケパンも食べたくなるよ」
一日10個限定のコロッケパン。あれが大好物で、そういえば4時間目のチャイムと同時にダッシュしていたな。運動は得意じゃないあたしが機敏になる唯一の瞬間だった。
「じゃあ、購買行く日は言っといてね。いーちゃんのお弁当はわたしが食べるから」
「なにそれ。結局あたし毎日お弁当つくらないといけないじゃん」
「だっていーちゃんのお弁当おいしいんだもん」
言いながら、サユがあたしの弁当箱を箸でつついた。そしてメインのミニハンバーグをひょいっとカワイイ口に放りこむ。信じられない。ふたつしかないのに!
「あーおいしい!」
……まあ、いっか。そんなに幸せそうな顔をしてくれるなら。
やっぱりゴハンをつくることの意義って、ここにあると思う。誰かが喜んでくれる。全部食べてくれる。それが最高にうれしいよ。ひとりでゴハンを食べていたころは知らなかったこと。
だからあたしはいま、おかーさんにも毎日お弁当をつくっている。おかーさんは毎日完食して帰ってきてくれる。うどん屋さんに行く日は言ってほしいと伝えてあるけど、祈のつくるベントーにはなににも敵わないって頭を撫でられると、いつもそれ以上はなにも言えなくなる。
おかーさんとは仲良しだよ。いままでもきっと仲良しだったけど、それ以上に、違ったふうに。
同時に、喧嘩をすることも増えて。喧嘩といってもささいな言い合いなんだけど、言いたいこと言って、言いたいこと言われる。そういうのをすごくうれしいって思うんだ。おかしいけど、やっと本当の母娘になれた気がするから。