「おまえといっしょにいたら、未来を見たいって思えるようになった。染めものを俺の誇りにしたいとか、この世界の第一人者になりたいとか、仕事に対していつの間にかそんなこと思うようになった。この歳になって夢ができた。

全部、祈のせいだ」


どうしてくれるんだ。と、おじさんはおどけたように言って、つながっていないほうの左手であたしの頭を撫でた。それからおだんごをつつかれた。


「俺も、がんばるから。祈もがんばれ」

「うん……」


あたしのほうこそありがとう、とか、いろいろ気の利いたことを言いたいのに、なんにも言葉になってくれなくて情けない。

これで最後なのに。あしたからはもう、当たり前に会うことなんかできなくなるのに。


「ああ、そうだ……。これ、おまえに預けとく」


おじさんがポケットのなかをゴソゴソ漁って、なにか小さいものをこっちに差し出した。


「アトリエ、俺が戻ってくるまで管理しといてほしい。よもぎもそうだけど、いろいろ預けちまって悪いな」


小さな鍵だった。こんな大切なものを受け取ってもいいのかとためらうあたしに、おじさんは笑って、ちょっと強引にそれを握らせる。


「おまえもあそこに名前書いたろ。だからもう半分、このアトリエはおまえのもんだよ」


そうだっけね。ドアのところ、おじさんの名前の隣に、『中澤 祈』とか書いちゃったんだっけね。なつかしいなあ。ほんの数か月前のことなのに、もう遠い昔のことみたいに思うよ。