ずっと屋外にいると、空が暗くなっていく過程を体感できておもしろいな。世界がグラデーションみたいにゆっくり染まっていくのがわかる。そして最後は真っ黒な世界になる。

そんな真っ黒が、ふいに明るい光に包まれた。直後、ドンという大きな音が鼓膜を殴った。

――花火だ。いよいよ始まってしまった。


アカ、アオ、ミドリ。それから金色。ピンクもあるな。まんまるだったり、雨のように降り注いできたり、形もいろいろだ。ハート形とかもある。

打ち上げ花火を見るのなんていつぶりだろう。こんなに近くで見るのなんで生まれてはじめてかな。

きれいだな。とてもきれい。夢みたいだ。


思わず立ち上がっていた。ぽかんと口をあけたまま空を見上げていると、いつの間にかすぐ隣におじさんも立っていた。


「そんな大口あけて見上げてると」

「花火が落っこちてきてのどに詰まる?」


ふたりで笑った。ナマイキって言われた。でもその声は、ピークを迎えた花火の音にかき消されてしまった。いったいいくつの花が夜空に咲いては散っていってるんだろう。

昼間みたいに明るかった。それくらい派手に、ものすごい数の花火が打ちあがっていた。


もう少しで終わってしまう。

花火大会の終わりが、同時にヘンテコな毎日の終わり。そうしたらしばしのお別れの始まり。


さっきよりうんと近く、すぐ傍にあるおじさんの右手をまた盗み見たけど、今度は見なかったふりはやめた。

そっと手を伸ばして触れる。そのままごつごつした手のひらを握ると、おじさんは花火を見上げたまま、なにも言わないで握り返してくれた。