花火大会の会場は予想以上に混んでいた。人の波が遠目でもわかるくらいで、ふたりしてウワッて顔をしたあと、おじさんはそのままUターンした。彼が向かったのはアトリエだった。


「ここからきれいに見えるんだよ、花火」


来る途中にコンビニで買ったアイスをこっちに手渡しながら、おじさんが言う。ちゃんと袋から取り出してくれているところがいいな。

ぱくりと一口かじると、冷たくて甘いチョコレートが口のなかいっぱいに広がって、なんとも幸せな気分。やっぱり夏のアイスは最高だよ。おじさんは隣でソーダのアイスを頬張っていた。


「なんかさ、あたしたちっぽいよね、人混み見てすぐに引き返してきちゃうところとかさ。笑える」

「ジェーケーなんだからおまえはもうちょっとがんばれよ」

「ねえ、JKって言葉、好きだよね」

「最近覚えた」

「ウソ!? それはいくらなんでも時代に取り残されすぎでしょ」

「うるせえな」


東の空はすでに紺色に染まり始めていた。ふたりならんで車止めに腰かけて、それをぼんやり眺めた。

時折、思い出したようにぽつぽつ会話をしたりもしたけど、ほとんど無言だった。食べもの縛りのしりとりも5往復くらいで終わった。


ああ、嫌だな。もう夜だ。もうすぐで一日が終わる。最後の一日が、東から迫る闇に飲まれてゆく。

もどかしい気持ちになった。近いようで遠い場所にある、おじさんの右手を何度も盗み見ては、見なかったふりを決めこんだ。