サユはあたしの顔を見てからから笑う。


「照れてるー」


うるさい。


「もういいから手伝ってよ」

「あ、いーちゃん怒ったね」


怒ってないよ。困っているだけ。

サラダを完成させ、スープを皿に盛りつけると、サユがせっせとダイニングテーブルへ運んでいく。オムライスももう少しでできあがる。あとは3枚目の薄焼き卵を焼くだけだ。3枚って、サユと、あたしと、おかーさんのぶん。


おかーさんは、あたしが学校に行かなくなってから、普段より1時間は早く帰宅するようになった。いままでは外食をしていた、その1時間のぶんだけ。

まあどうしたっておかーさんの帰りは遅いから、いっしょにごはんを食べるというのはなかなか頻繁に実現できないわけなんだけど。

それでもやっぱり、顔を見てオヤスミのあいさつができるようになったのは、けっこううれしいことだよ。



「よし、できた。食べよっか」


まだ熱い黄色がお行儀よく横たわる皿をテーブルに置く。同時にサユが目をキラキラと輝かせる。なんだかきゅんとしてしまう。自分がつくったごはんで誰かが喜んでくれるってのは、たまらないなあ。


「わーい。いただきます!」

「麦茶でいい?」

「うん、ありがと。あ、そうだ、三宅に写メ送ってやろうっと」


三宅純矢(ジュンヤ)は、去年から同じクラスで、高校ではいちばん仲の良い男友達だ。バカだし、見てていろいろすごく不器用なんだけど、根はけっこういいやつ。あと、水泳部のエース。らしい。


「自慢してやるんだ、いーちゃんのごはん」


そんな三宅に対し、サユはいちいち闘争心を燃やしている。その原因はあきらか。男女の壁があるから仕方ないんだろうけど、彼女の得意な背泳ぎで自分より速く泳ぐことと、あたしと仲良くしていることが気に入らないんだとさ。

ぽわんとはしてるけど、サユはけっこう負けず嫌いな女の子なのだ。