「ダメだからね? 佐山くん、もう二度と、ひとりでがんばろうとしてつぶれそうになんかなんないでよ。ねえ、佐山くんの周りにはいろんなひとがいるんだから、それを絶対に忘れないで」


おかーさんは知ってるんだろうな。『廃人』だったころのおじさんのこと。おじさんがいまにも死にそうだったこと、知ってるんだろうな。だからこんな真剣なトーンで言うんだ。


「わかってます。でもそれを言うならゆりさんも同じですよ。……なあ、祈」


名前を呼ばれて、あわてて顔を上げると、正面に座っているおじさんの目はすでにこっちを見下ろしていた。エンガワがのどに詰まるかと思った。


「……うん」


やだな。どうしてこんなまぬけな返事しかできないんだろ。

でもおかーさんはぐりぐりと頭を撫でてくれた。おかーさんは、うれしそうな、照れたような顔をしていた。

おじさんはとても優しいまなざしでこっちを見ていた。よかったな、って言われているような気がしたよ。


照れくさい。うれしい。あたしいまたぶん、おかーさんと同じ顔してる。


「でも、和志さんもだよ。あたしだってジャンジャン世話するからねっ」

「ああ……そうだな。俺、親子二代にわたって世話になって、なんか情けねえな」


おじさんは眉を下げて笑った。そして箸を置くと、もう一度おかーさんに向き直って、深く頭を下げた。


「死ぬまで中澤家には足向けて寝られないです。今後とも、よもぎ共々よろしくお願いします」


ほんとかな。おじさんはフツウに足向けて寝そうだけど。こんなことを言ったらまた痛くないデコピンをくらいそうだ。