おじさんの左腕があたしの首の下に通る。あんまりにも自然な行為だったので、これが腕枕ってやつだってことに気付くまでずいぶん時間がかかった。

おじさんの顔が目の前にある。ほんの数センチ向こう。少しでも顔を動かせばくちびるが触れあってしまいそうなぎりぎりを保っていた。それ以上に近づこうとも、離れようとも、お互いにしなかった。


「誰かといっしょに寝るのって久しぶりかも」

「ふうん」

「せまいね」

「こっちの台詞だ」

「でも、いいね、あったかい、すごく」


少しの間があいた。せまいシングルベッドの上で、おじさんはおもむろに体を動かして、あたしの髪に触れた。そして優しく撫でた。

暗闇のなか、こわいくらいにすべてがおじさんを感じていて、どうしようもない。

夜はダメだね。必要以上に感傷的になるよ。気持ちが止まらなくなる。

おじさんが、腕枕なんかして、髪なんか撫でるもんだから、なおさら。


「……ねえ。ほんとに行っちゃうの?」


オンナノコになってしまう。


「わかるんだよ。和志さんが本気で染めものと向きあおうとしてること。頭ではわかってる。でも……心はもっと別のところにあって、そっちはまだぜんぜんわかってくれないの。どうしても嫌だって思っちゃって、眠れないの」


おじさんのTシャツの胸元を両手で握った。


「嫌だ。ほんとは離れたくない。傍にいたい。……和志さんといっしょにいた数か月、すごく楽しかったから」


こんなこと言いたくないのに、言わずにはいられない。どうにもできない。ぜんぜんなにも伝わっていないような気がして、もどかしい。こわい。

涙が出た。びっくりするほどの量があとからあとから出てきた。


「おまえは本当によく泣くやつだな」


そうだね。自分でもうんざりする。でも、泣き虫なのはおじさんと出会ってからなんだよ。