おじさんが部屋の電気を点ける。まぶしくて目を細めて十数秒後、やっと目が慣れる。
そういえば、かれこれ2か月ちょっとくらいここで暮らしているけど、おじさんの部屋に足を踏み入れるのってはじめてだ。
黒い部屋だった。モノトーンで統一されている、よけいなものはいっさいない部屋。机とベッド、それからパソコン、あとは小さな本棚だけ。
この部屋は寝るためだけに使っているって感じなんだろうな。おじさんの本当の意味での自室って、アトリエだと思う。
「早く来いよ。いっしょに寝るんだろ」
まじまじと部屋を観察している途中、眠たそうな低い声が落ちた。そっちに目を向けると、すでにベッドに横になり、掛け布団をぺらりとあけてあたしを迎え入れる体勢のおじさんがいた。
もしかしていま、すごくヤバイコトしてる?
緊張とか、そんなのはもうとっくに通り越している。もはやそういう次元じゃないよ。
でもそれを悟られるのはくやしかったし、恥ずかしいので、黙ってベッドに潜りこんだ。あたしがベッドに入るなり、おじさんはすぐに明かりを消して、ぐるりと背を向けた。
ああ、なんだ、いっしょに寝ると言っても、やっぱり背は向けちゃうのか……。
目の前にある広い背中に手を伸ばしてそっと触れる。
体温も、鼓動の音も、呼吸のリズムさえ、触れている部分からおじさんの全部があたしの体に流れこんでくるように感じた。
「……なんだ、こわい夢でも見たのか」
あきれたような、バカにしたような言い方。
「そうだったらこっち向いてくれる?」
「そうじゃねえんだろ」
「うん、でも、こっち向いてよ」
おじさんは黙っていた。あたしも黙っていた。たまらず、押し付けるように背中におでこをうずめると、やがておじさんは降参したってふうに体を動かした。