その夜はどうにも眠れなかった。窓の外に広がる黒い空を見上げると、今夜は見事な満月で、まるで吸いこまれるように美しいそれをしばらく眺めていた。

蝉の鳴き声がする。もうすっかり夏だなあ。

もう少ししたら、あたしはこの部屋を出る。おじさんも出ていく。お別れだ。前向きな、お互いにいまより成長するための、必要な別れ。そのことはもう、納得も、理解もできているんだ。


でも、どうしたってさみしい。ダメだよ。眠れない。どうしても。

だってあたしは、おじさんのこと、とても好きだから。とても、大切なひとだから。


ブランケットを持っておじさんの部屋へ向かった。ちょっと迷ったけど、今夜を逃したらもう終わりな気がしたから、考えるよりも先にそうした。よもぎを起こしてしまわないよう、申し訳ていどの忍び足はしたよ。

ドアをノックした。小さく、2回だけ。数秒待ってみても返事がなくてがっかりしたけど、ほんとは心のどこかで安心していたと思う。だって、もう午前1時半だし、こんな時間に起こしといて、ウマイ言い訳なんか思いつかないし……。


「――なんだよ、こんな時間に」


でもドアは開いた。暗闇のなかにぬっと出てきたおじさんの声は、ちょっと不機嫌そうにくぐもっていて、申し訳ない気持ちになった。きっと寝ていたんだ。そりゃそうか。


「あ……ええと、その、眠れなくて」


もごもご言うと、おじさんが小さくため息をつく。


「羊でも数えてろよ」

「1万匹まで数えた」

「……もうちょっとマシな嘘つけ」


自分でもそう思う。


「いっしょに寝ても、いい?」


あまりにド直球で驚いた。おじさんはもっと驚いていた。でも、彼は数秒おいたあとで、「いいよ」と言った。そのときに頭をぐしゃりと撫でられて、変にどきどきした。