あたしだって同じだ。ぜんぜん、いまの自分には満足できていなくて、だからこそ学校に行こうと決めたわけで。いま、あたしにおじさんを引き止める権利なんかない。わかってる。
でも、だからって簡単には割りきれないよ。ハイそうですか、がんばってね、なんて言えない。嫌だって思わずにはいられない。
「神戸なんか行っちゃったら、会えなくなるじゃんか」
自分でもびっくりするほどブスッとした声が出た。
「そうだな。頻繁には、無理だな」
「ウソツキ。こないだは『いつだって会える』って言ったくせに」
「悪いと思ってる」
「そう思ってたら神戸になんか行かないっ」
「なあ、あんまり困らせるようなこと言うなよ、祈」
そっちこそ、あんまり困ったような顔しないでよ。ため息まじりに笑ったりしないで。うんざりって顔、やめてよ。
もう神戸に行くことを決めたってふうにしゃべらないでほしい。
「だってウソツキじゃん。ウソツキ。和志さんはウソツキだっ」
手に持ってるシュークリームを、できればそのひげヅラに投げつけてやりたかった。おいしいシュークリームがもったいないからしなかったけど。
情けないくらい混乱してるのがわかる。怒りとか、悲しみとか、さみしさとか、きっと簡単に形容できる気持ちじゃない。
いま持っているのがカレースプーンだったら、たぶんあたしは本当に放っていたよ。