むすっとした顔で口を開き、

「いま準備してるし」

と言った。

スッゴイかわいくない顔で、スッゴイかわいくない声を出してしまった。ついでに言うと、台詞も最高にかわいくないね。


少しのあいだ沈黙が続いた。やがて洗い物を終えたおじさんが、いつものココアをいれて、シュークリームをふたつ持って戻ってきた。


「それよりさ、真鍋さんの息子さんって画家なんだってね。すごいな」


あわてて口を開いたのは話題を変えるためだった。引越しうんぬんの話はこれ以上したくないよ。シュークリームはおいしく食べたい。

おじさんはちらりと一瞬だけあたしのほうを見ると、再び視線を下に戻す。


「ああ、海辺の家でひとり暮らししてるらしいな」

「いいよね。あたしも海辺の街に住んでみたいなあ」

「そうか? クルマは錆びるし、外に洗濯物干せねえし、潮くせえだけだろ」


でも、あこがれるよ。海辺ってなんだか特別な感じする。

そんな素敵な場所で、気の向くままに絵を描いて、真鍋さんの息子さんは人生を謳歌しているんだなって思うと、なんだか別の世界の人間のように思える。

おじさんのひとつ年下だって聞いたけど、どんなひとなんだろ。あんなに素敵なおじいさんの息子さんだし、きっと素晴らしい絵描きさんなんだろうな。


「あたし、海って好きだよ。なんか絶対的な感じするもん、やっぱり海は母だって思う」

「なんだよ、それ」


シュークリームにぱくりとかぶりつくと、同時に甘いカスタードクリームが口のなかに流れこんできて、夢のような気分になった。液体に近いようなカスタードだ。ゆるいわけじゃなくて、ふわっとしたやわらかいクリーム。

おいしい。こんなシュークリームはじめて食べたよ。今度おかーさんにも食べさせてあげたい。