◇
最後のカボチャを食べ終えたおじさんがスプーンを置いた。夕食の夏野菜カレー。いっしょに煮込むんじゃなくて、ポークカレーに焼き野菜を乗っけたやつ。きのうテレビで紹介していておいしそうだったからこれにした。レシピはうろ覚え。
「ごちそうさま。あとでシュークリーム食うか」
ネットとかでもけっこう話題になっているらしい、郊外にある老舗店の限定シュークリーム。『きょうはありがとうね』と言って、帰り際に岡本さんがくれたんだ。
「うん」
うなずいて、最後のナスを口に放りこむ。ごちそうさまと手を合わせると、おじさんが当然のようにふたりぶんの食器を下げてくれた。
「そういや、荷造りは進んでんのか」
カウンターの向こう側から声をかけられる。シンクに流れる水の音のせいで聞こえないふりをして、無視を決めこもうかとも思ったけど、やめた。あまりに子どもっぽいんじゃないかと思ったから。
どうして突然そんなこと聞くんだろ。いままで一度もそんなこと言わなかったくせに。なんにも準備していないこと、もしかしてバレてるのかな。
「ぼちぼち」
進んでるとも進んでないとも答えたくない。いつ出ていくとか、そういう具体的な話をしたくない。自分で出ていくって言ったくせに、その日を迎えること、すごく恐れてる。
「ボストンバッグとキャリーケースのぶんだけだろ。すぐ終わるんじゃねえのか」
そんなふうに言わないでよ。それじゃまるで追い出そうとしているように聞こえるよ。
おじさんは最近また、前みたいに閉ざしているような気がするから、さみしい。
最後のカボチャを食べ終えたおじさんがスプーンを置いた。夕食の夏野菜カレー。いっしょに煮込むんじゃなくて、ポークカレーに焼き野菜を乗っけたやつ。きのうテレビで紹介していておいしそうだったからこれにした。レシピはうろ覚え。
「ごちそうさま。あとでシュークリーム食うか」
ネットとかでもけっこう話題になっているらしい、郊外にある老舗店の限定シュークリーム。『きょうはありがとうね』と言って、帰り際に岡本さんがくれたんだ。
「うん」
うなずいて、最後のナスを口に放りこむ。ごちそうさまと手を合わせると、おじさんが当然のようにふたりぶんの食器を下げてくれた。
「そういや、荷造りは進んでんのか」
カウンターの向こう側から声をかけられる。シンクに流れる水の音のせいで聞こえないふりをして、無視を決めこもうかとも思ったけど、やめた。あまりに子どもっぽいんじゃないかと思ったから。
どうして突然そんなこと聞くんだろ。いままで一度もそんなこと言わなかったくせに。なんにも準備していないこと、もしかしてバレてるのかな。
「ぼちぼち」
進んでるとも進んでないとも答えたくない。いつ出ていくとか、そういう具体的な話をしたくない。自分で出ていくって言ったくせに、その日を迎えること、すごく恐れてる。
「ボストンバッグとキャリーケースのぶんだけだろ。すぐ終わるんじゃねえのか」
そんなふうに言わないでよ。それじゃまるで追い出そうとしているように聞こえるよ。
おじさんは最近また、前みたいに閉ざしているような気がするから、さみしい。