最後のカボチャを食べ終えたおじさんがスプーンを置いた。夕食の夏野菜カレー。いっしょに煮込むんじゃなくて、ポークカレーに焼き野菜を乗っけたやつ。きのうテレビで紹介していておいしそうだったからこれにした。レシピはうろ覚え。


「ごちそうさま。あとでシュークリーム食うか」


ネットとかでもけっこう話題になっているらしい、郊外にある老舗店の限定シュークリーム。『きょうはありがとうね』と言って、帰り際に岡本さんがくれたんだ。


「うん」


うなずいて、最後のナスを口に放りこむ。ごちそうさまと手を合わせると、おじさんが当然のようにふたりぶんの食器を下げてくれた。


「そういや、荷造りは進んでんのか」


カウンターの向こう側から声をかけられる。シンクに流れる水の音のせいで聞こえないふりをして、無視を決めこもうかとも思ったけど、やめた。あまりに子どもっぽいんじゃないかと思ったから。

どうして突然そんなこと聞くんだろ。いままで一度もそんなこと言わなかったくせに。なんにも準備していないこと、もしかしてバレてるのかな。


「ぼちぼち」


進んでるとも進んでないとも答えたくない。いつ出ていくとか、そういう具体的な話をしたくない。自分で出ていくって言ったくせに、その日を迎えること、すごく恐れてる。


「ボストンバッグとキャリーケースのぶんだけだろ。すぐ終わるんじゃねえのか」


そんなふうに言わないでよ。それじゃまるで追い出そうとしているように聞こえるよ。

おじさんは最近また、前みたいに閉ざしているような気がするから、さみしい。