「どうして僕の個展に来てくれたのかと問うたら、『妹は塗り絵が得意で』と言っていてね。それならと、彼をこの世界に引っ張ってきたんです」
そうだったのか。どうしておじさんがこの道を選んだのか、なんとなくずっと気になっていたけど、そんなことがあったんだ。
「こんなことあたしが言うのもおかしいですけど……。真鍋さん、ありがとうございます。おじさんのこと救ってくれて、ほんとに……」
真鍋さんとおじさんは運命的な出会いを果たしたんだと思う。でも全部が必然だったようにも思う。なにかがどこかで少しでも違っていたら、おじさんはいまここにいなかったのかもしれないし、あたしとおじさんは出会えていなかったのかもしれない。
不思議だね。この世界は、不思議。見えない力がはたらいてるんだろうなって思わずにはいられない。
「佐山くんは僕にとって息子みたいなものです。だからとても安心しているんですよ。きみとの暮らしが、彼にとっていい方向に動いたようで、本当によかった。彼、とてもまるくなりましたし、なにより、以前よりいいものを染めるようになりました」
真鍋さんが目を細める。そして、とびっきり優しいほほ笑みを向けてくれた。目尻に刻まれたいくつもの深い皺が素敵だと思った。
「きみのこと、とても大切な存在だと、彼は言っていたんですよ。あまりに穏やかな顔つきだったんで少し驚きました」
うそ……。
「祈さん、きみが彼を生き返らせてくださったんですね。ありがとうございます、これからも、彼を、どうかよろしくお願いしますね」
言えなかった。もう少ししたらおじさんのところを出ていこうと思っていること。
同時に、ものすごく大きな、恐怖みたいなものが胸を押し上げてくるのがわかった。
やっぱりあたし、あの部屋にいるべきなんじゃないかって、おじさんとよもぎといっしょにいるべきなんじゃないかって、こわくなった。