「こちらの作品も拝見させていただきました。あなたの作品はいつも拝見しているのよ。あなた、本当に優しい染めものをするから、私、大好きなんですよ」


岡本さんが言う。おじさんはまた小さく頭を下げた。


「ところで、少し折り入った話をしたいのだけど、いいかしら。大切な話よ」


ていねいで、品のあるしゃべり方だけど、とても力のある言い方だった。相手に『ノー』とは絶対に言わせないような。職人の世界で生き残ってきた女性ならではの強さみたいなものをひしひしと感じた。

おじさんも圧倒されていた。いつものポーカーフェイスなんだけど、たじたじって感じ。おじさんは、あたしにとってとても大人だけど、この世界では若造なんだなあって思う。


こうやって時代は進んでいくんだって、おかしなところで感心したよ。

あたしより大人なおじさんより、もっと大人がいて、そのまたもっと大人な存在がいる。そしてあたしも、誰かにとっては大人で……。なんだか途方もないな。


「真鍋さん、祈ちゃん、ごめんなさいね。佐山くん、少し借りるわね」


岡本さんが申し訳なさそうに言った。続けておじさんが「いい子にしてろよ」って言った。いつまでも変にガキ扱いして、ほんと、腹立つなあ。

真鍋さんとならんで、ふたりのことを見送った。裏に事務所があるからそこで話をするらしい。真鍋さんの個展なのに、当たり前のように事務所に出入りできる岡本さんは、やっぱりスゴイひとなんだと思った。

ふたりでなんの話をするのかな。あたしが聞いたらマズイ話なんだろうか。