このたびはおめでとうございます、と言って、おじさんが行きしなに買った日本酒を真鍋さんに手渡す。おじさんはお酒を飲まないひとだからすごく悩んでいた。真鍋さんは日本酒に目がないらしい。
「ああ、すみません、ありがとうございます。それと、素敵な作品も本当にありがとうございました。きみたちのおかげで素晴らしい展覧会にすることができました」
うれしそうに紙袋を受け取った真鍋さんが言う。あたしを見てほほ笑んでくれたその顔を見て、『コワイじいさん』っていうのはおじさんのいつもの冗談だったって確信した。
「そういえば、佐山くん。僕のお師匠がきみに会いたいと、きょういらしてるんですよ」
「俺に?」
「以前からきみの作品に非常に興味を持っていらしてね。一度話したいと何度もおっしゃっていたものですから、お呼びしてしまいました」
おじさんの、お師匠さんの、お師匠さん。職人の世界ってのはタテのつながりがすごいんだ。おじさんはお弟子さんをとらないのかなあと、ぼんやり思った。
「――こんにちは、岡本ミチです。遅くなってしまってごめんなさいね」
いい意味で低い、おばあさんって感じの声。
ふいに落ちたそれに振り向くと、ベージュと黄色のあいだっぽい色の着物を身にまとった、小さくて小太りのおばあさんが立っていた。
いつの間にか体ごと彼女に向き直っているおじさんを見て、あたしもあわててまわれ右をした。
「岡本先生、こちらが佐山和志くん、こちらが中澤祈さんです」
真鍋さんが紹介してくれるのに合わせて、おじさんが頭を下げるので、真似をした。ぎこちない会釈になってしまった。
「はじめまして、ずっとお会いしたかったのでとてもうれしいわ」
「こちらこそ……岡本先生にお会いできるなんて光栄です。ありがとうございます」
ふたりが頭を下げあい、握手をする。岡本さん、エライひとなのかな。おじさんも真鍋さんも『先生』って呼んでる。