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サユが学校帰りにうちに寄るようになったのは、あたしが学校に行かなくなって1週間がたつころだった。

幼稚園のころから常にあたしの隣に居座っている彼女は、あたしがズル休みを続けている理由なんか一度も聞いてきたりしないんだから、さすがだなって思う。

きっとなんとなくわかっているんだ。あたしが学校に行かないワケも、なにも言おうとしないワケも。いつもぽわんとした顔をしているくせに、あたしのこととなるとほんとに敏感で、たまにびびっちゃうよ。


「三宅がつまんなそうにしてるよ。いーちゃん学校来ないから」


おかーさんほど上手にはできないけど、甘ったるくつくったホットココアを出すと、サユはにこっと笑ってアリガトウと言った。

猫舌のサユはいつもあきれるほど時間をかけてココアを飲む。いまもチロチロ、さながら猫のように舌で温度を確認していて、そのなかですかさずしゃべって、忙しそうだなあ。


「そんなこと言ってるの? でも三宅、1回も連絡なんかよこしてこないよ」


カウンターキッチンのなかから答えると、サユはダイニングテーブルに上半身を突っ伏して、なぜか不服そうに口をとがらせた。


「きょうはなにつくってるのぉ」


くちびるをつきだしたまま、犬のように鼻をひくひくさせて彼女は言う。それがおかしくて思わず笑ってしまった。猫か犬かどっちかにすればいいのに。


「きょうはオムライスだよ。サユのためにひき肉じゃなくてチキンでつくってる」


きょうはサユがうちでごはんを食べていく日だからと思って用意しておいたんだ、鶏もも肉。サユの好物。